
子供のころ
母からよく言われた言葉に
『お天道さまは見ている』であった。
何事にも無頓着な父とは
打って変って筋道を通す母であったので
よく叱られたものだ。
母は生まれつき目が悪かったが
人にはよくしてくれていた。
ひょいかごに食料品をいっぱい
詰め込み、母は行商して回った。
そんなある夜、外は真っ暗に
なっていても母は戻らず
泣きながら山道を探して歩いた。
昭和30年代のはじめ。
まだ私が小学校に入ったばかりの
ことである。
人はひとりではない。
いつも
誰かがどこかで見ていてくれる。
いつも
誰かがどこかで見守っていてくれる。
だから
自分の足跡は汚しては
いけないのである。